けけの備忘録

20代そこそこのいわゆるZ世代。ニュースや日常生活の中で感じたことをエッセイ的に書きます。

近江鉄道の1520円が与えてくれたもの

ここ2回は暗い話題で記事を書いてしまったので、少し反省している。

 

 

www.nikkei.com

日経新聞に、国交相のローカル路線見直しの新基準が発表されたという記事が載っていた

 

全国のローカル路線は経営的に厳しく、廃線間近、もしくは廃線になった路線が数多くある。

もともと、地方は車社会だからそこまで電車に乗る文化はないのかもしれない。

しかし、鉄道が通じていない場所を「陸の孤島」と形容するように、いざというときに「鉄道が利用できる」という状態そのものに価値があると思う。もちろん採算を度外視するわけにはいかないが。

 

 

さて、ローカル路線全般について語るのもいいが、今日は個人的な思い出を書きたいと思う。

私が初めてローカル鉄道に乗ったのは高校1年生の時に乗った滋賀の近江鉄道だ。

某アニメの舞台が滋賀県豊郷町という場所にあり、そこに訪問するために利用した。

私鉄は大手の阪神電車阪急電車以外ほぼ乗らない生活であったから、とても新鮮であった。

 

滋賀のJR近江八幡駅から近江鉄道のホームに向かい、改札の前で切符を買った。

近江八幡駅から豊郷駅は20キロほどの距離だが、料金は片道で760円

お世辞にも安いとは言えない料金だ。ましてや高校生の財力である。

 

切符を持ち、改札で駅員さんに「○○○大丈夫ですか」と聞かれた。○の部分はよく聞こえなかったが、男子高校生の見栄でとりあえず「大丈夫です」と言った。

 

そのまま乗り換え地点である八日市行きの電車に乗った。

電車のスピードはそこまで速くなく、揺れも多い。しかし、それらも含めて少しワクワクした気分だった。

 

途中駅に停車すると、自転車を引きながら小学生くらいの子供たちが乗ってきた。地元の人々からすれば当たり前の光景なのだろうが、私のような都会民には衝撃的であった。

調べると、近江鉄道では「トレインサイクル」というのをやっていて、正式なサービスなのだそうだ。ローカル路線ならではのサービスである。

近江鉄道 トレインサイクル



 

駅に着くたびに地元の学生が乗ってきた。だいたいジャージ姿である。

名前が思いっきり書いてあるジャージを着ている高校生など、都会ではほぼ見ない。

 

 

田園風景とジャージ姿の高校生と自転車とつり革。自分の普段の生活では全くない組み合わせに、「非日常」を感じて少し嬉しくなった。誰かの日常は誰かの非日常なのだと強く感じた

 

八日市に着き、乗り換えようと思ったところで、駅員さんが言った「○○○大丈夫ですか」の内容を知ることになった。乗り換えの電車が来るのが約50分後だったのだ。

 

電車の待ち時間は20分程度が最大であった自分にとっては、とても長い時間であった。

ホームの木でできた椅子に腰掛け、しばらくホームから見える駅周辺の様子を眺めていたが、見えるのは墓地くらいであった。仕方なく、学生の身分を受け入れて英単語帳を開いた。

 

その後電車が来たときにはとても嬉しかった。サンタクロースが来た気分だった

 

その電車に乗り、数十分の旅路を経て目的地である豊郷に着いた。豊郷は無人駅であるため、運転手さんに切符を渡して降りる。もちろん人生初の無人駅である。都会なら地下に降ったり、階段を登ったりしなければ行くことができない反対側のホームも10秒で行ける。

目的地は駅そのものではないが、駅で数分間余韻に浸っていた。

 

その後、駅から目的地まで行き、満喫した後、近江鉄道でまた帰った。

やはり760円。移動で1520円は高校生にはつらいものだ

 

 

高校生の私は多くの初めてをその日に経験した。まさに「冒険」に近い感覚である。

そういう意味では1520円の価値をはるかに上回る経験だった。

 

日本には自分の知らない場所で知らない生活をしている人がいる。もちろんそんなことは当たり前だ。

しかし、日本人ばかりで構成された日本にいれば、共通理解がある前提で社会が動いており、そんなことは忘れがちだ。

 

そして日本国内でも違うのだから、世界ではもっと違うのだろう。

 

独のメルケル元首相が

みなさんには、他人の目で世界を見ることを忘れないでほしい

と言っていた。

 

他人の目で物事を見る、それはただの客観視とも違うものの見方だ。

 

 

高校生の近江鉄道での冒険は、私にとって間違いなく「他人の目」を養うための1ピースとなったはずだ。

他人の目を養うための1520円。そう思うとお買い得だ。今ではそう思う。